「もう終わりだ」 彼がそう思ったのは、42歳の冬だった。
10年以上勤めた会社での降格。 住宅ローンの残りは2,300万円。 思春期の息子とは口をきかなくなり、 妻とは1年以上、まともな会話がなかった。
それでも彼は、 「父親なんだから」 「男なんだから」 そう言い聞かせて、毎朝スーツに袖を通していた。
だが、その日は違った。
会社のトイレで、突然、体が動かなくなった。 息が浅くなり、心臓だけが異常な速さで打ち続ける。
「死ぬのかもしれない」
本気で、そう思ったという。
目次
■ 42歳、仕事での挫折がすべての始まりだった
彼は地方の中小メーカーで営業として働いていた。 20代、30代は成績も良く、部下もつき、係長まで上り詰めた。
だが40代に入り、
- 成績が徐々に落ちる
- 若い上司が赴任してくる
- 営業方針が大きく変わる
その流れについていけなくなった。
努力しているつもりでも、結果が出ない。 報告のたびに、上司の眉間にしわが寄る。
そしてある日、告げられた。
「来月から、一般職に戻ってもらう」
降格だった。
年収は120万円下がり、 ボーナスもほぼ消えた。
帰り道、駅のベンチに座り、 1時間以上、動けなかった。
「俺は、もう必要ない人間なんだ」
■ 家庭でも、居場所はなかった
家に帰っても、心は休まらなかった。
妻はパートを増やし、 息子はスマホばかり見て、返事もしない。
夕食の席で彼が話しかけても、
「ふーん」 「別に」
それだけ。
ある日、妻に言われた。
「正直、あなたといても息が詰まる」
その夜、彼はリビングで一人、電気もつけずに座っていた。
テレビは音だけが流れ、 画面の中の誰かが笑っていた。
「俺の人生って…何だったんだろう」
■ 体が壊れた日、「もう一人では無理だ」と悟った
それが、冒頭の発作だった。
救急車で運ばれ、 診断は「重度の自律神経失調症と抑うつ状態」。
医師は、はっきり言った。
「今の生活を続けたら、確実に倒れます」
だが彼は、こう答えた。
「休めません。家族がいるので」
そのとき、医師は静かに言った。
「あなたが壊れたら、その家族はどうなるんですか」
それが、胸に突き刺さった。
■ 初めて「助けて」と言えた日
彼は、意を決して有給を取り、 地域のメンタルクリニックに行った。
カウンセラーに言われた。
「今、一番つらいことは何ですか?」
その瞬間、感情が溢れた。
仕事のこと、 家庭のこと、 お金の不安、 自分が情けないと思っていること。
すべてを、嗚咽混じりで話した。
話し終えたあと、 胸が少しだけ、軽くなっているのに気づいた。
彼はそこで、初めて「一人で抱えなくてもいい」と知った。
■ 人生を立て直すために、彼が“やめたこと”
回復の第一歩は、「何かを足すこと」ではなかった。 「やめること」から始まった。
- 成果だけで自分の価値を測るのをやめた
- 家族に“正論”をぶつけるのをやめた
- 全部自分が背負おうとするのをやめた
代わりに、彼はこう言うようになった。
「今日はしんどい」 「助けてほしい」
それだけで、家庭の空気が少しずつ変わっていった。
■ 息子との関係が変わった、小さな出来事
ある日、息子がポツリとこう言った。
「父さん、最近ちょっと優しくなった?」
彼は答えた。
「そうかもしれないな」
息子は小さく笑った。
それだけの出来事だった。
だが彼は、
「人生で一番、報われた瞬間だった」
と、後に語っている。
■ 1年後、彼の人生は“別物”になっていた
給料は、以前ほどには戻っていない。 役職も、まだ平社員のままだ。
だが、彼の表情はまったく違っていた。
- 深く眠れるようになった
- 朝、息苦しくならなくなった
- 家で笑う回数が増えた
彼は今、こう言う。
「あのとき壊れていなかったら、俺は一生、本当の意味で生きていなかった」
■ 人生を立て直した“本当の瞬間”とは何だったのか
彼の人生が立て直った瞬間は、
・昇進した日でも ・給料が戻った日でも ・成功した日でもなかった
それは――
「もう無理だ」と、自分の弱さを認めた日だった。
まとめ:あなたの人生にも、必ず“立て直せる瞬間”は来る
もし今、あなたが――
- 仕事で追い詰められている
- 家族とうまくいっていない
- お金や将来が不安で眠れない
そんな状態にいるなら、 この物語は決して「他人事」ではありません。
人生は、“壊れたあと”から、静かに立て直せます。
必要なのは、才能でも、若さでも、運でもありません。
「一人でやらなくていい」と認める勇気。
それが、あなたの人生を再び動かす、最初のスイッチになります。
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